インクル124号 2020(令和2)年1月25日号 特集:共に働く 目次(Contents) 継続して働くを考える 2ページ 在宅勤務という働き方 4ページ 東京都障害者IT 地域支援センター 5ページ 進化し続けるユニバーサル農園 京丸園 6ページ  7ページ チャレンジを支える努力と工夫-特殊衣料- 8ページ キーワードで考える共用品講座第114講 9ページ 早稲田祭とバリアフリー 10ページ 令和元年度千代田区障害者理解促進事業(区民ホール展示) 11ページ ダンスだいすき!から生まれた奇跡 11ページ がすてなーに ガスの科学館でバリアフリー検証 12ページ ねりまユニバーサルフェス「第3回みんなのUDパーク」 13ページ 「文京つながるメッセ2019」共用品ブース3度目の出展 14ページ ハッピーパッケージ 15ページ 弊機構職員金丸淳子が令和元年度産業標準化功労者表彰を受賞 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 表紙写真:京丸園株式会社 2ページ、3ページ 継続して働くを考える  障害の有無に関わらず「共に継続して働く」ことは、共生社会を作る大きな要素ですが、 果たして日本社会に定着しているか、もしくは定着する方向に向かっているのでしょうか?  障害者手帳を持たない人を、障害者雇用の人数にカウントしたり、雇用するよりも罰金を払うことを選択している企業が対象企業の半数以上であったり、 雇用したはいいが、コミュニケーションが成立せずにうまく定着していない企業や機関も多く存在しています。  そもそも、罰則のある法定雇用率を示して促進させるものなのか、今号では「共に継続して働く」を考えていきたいと思います。 まずは、障害者雇用に関する現状がどのような背景で、どのようになっているか、説明します。 障害者権利条約  2006年に国連で採択された障害者権利条約での第二十七条には、「労働及び雇用」の項目があり、左記のように記されています。  「締約国は、障害者が他の者との平等を基礎として労働についての権利を有することを認める。 この権利には、障害者に対して開放され、障害者を包容し、及び障害者にとって利用しやすい労働市場及び労働環境において、 障害者が自由に選択し、又は承諾する労働によって生計を立てる機会を有する権利を含む。 締約国は、特に次のことのための適当な措置(立法によるものを含む。)をとることにより、 労働についての障害者(雇用の過程で障害を有することとなった者を含む。)の権利が実現されることを保障し、及び促進する。」 障害者雇用促進法  また国内の障害者雇用促進法では、障害者の法定雇用率制度と、障害者雇用納付金制度が設けられています。  法定雇用率制度では現在、45.5人以上の従業員がいる民間企業には、2.2%、官公庁には2.5%を義務付けており、 21年の4月までにそれぞれ0.1%ずつ高くなります。  障害者雇用納付金制度においては、常時100人を超える労働者を雇用している事業主は、 法定雇用率が下回っている場合、一人あたり月額4~5万円を納付する必要があります。  反対に、定められた法定雇用率よりも実際の障害者の雇用率が上回っている場合、 100名以上の労働者がいる機関の事業主には、超過一人当たり月額2万7,000円、 100名以下では2万1,000円が障害者雇用調整金及び報奨金として独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構から支払われる仕組みになっています。 民間企業の現状  次に障害者雇用の現状をみていきましょう。令和元年版の「障害者白書」によると、 18年6月1日現在の民間企業における雇用障害者数は、53万4,769.5人で、前年から1.07倍、15年連続で過去最高を記録しています。 内訳は、身体障害者が34万6,208人、知的障害者が1万2,166.5人、精神障害者が6万7,395人で、いずれも前年度よりも増加しています。 また、法定雇用率を達成している企業は45.9%となっています。 官公庁の現状  国の43機関では、実雇用率が1.22%、達成割合は18.6%、雇用0人という機関が3か所となっている。  都道府県161の機関では、99が達成し、達成率が61.5%となっています。  市区町村の2,470機関では、1,718機関が達成しており69.6%の達成率となっています。 特例子会社制度  特例子会社制度は、障害者の雇用促進及び安定を図るためにできた制度で、障害者雇用に特別に配慮した子会社を設立し、 左記の条件を満たせば、その子会社に雇用された人を親会社に雇用されたとみなし、障害者雇用率にカウントできることとなっています。 その条件とは、 ・親会社がその子会社の意思決定機関を支配している ・両社の関係が緊密である ・その子会社に雇用される障害者が5人以上で全従業員に占める割合が20%以上 などです。 支援の政策  公的機関の障害者への地域における就労支援として、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターの3つがあります。  ハローワークでは、専用窓口において、求職登録の後に、技能、適性、知識、希望職種、身体能力に基づき、 職業相談を行い、安定した職場定着を支援しています。  各都道府県に設置されている地域障害者職業センターでは、専門職の「障害者職業カウンセラー」により、 職業評価、職業指導から就職後のアフターケアに至る職業リハビリテーションを実施しています。  障害者就業・生活支援センターは、19年4月現在、全国各地に334か所あり、就業・生活両面から障害者への支援を行っています。 近年、雇用される障害者が増えてきていることに比例して、職場への定着支援も同センターの大きな役割となっています。 就労移行支援  福祉就労から一般就労への移行を希望する人への支援として、A型の支援と、B型の支援があります。  A型は、雇用契約に基づき、継続的に就労することが可能な人へ、各種就労に必要な訓練を行うと共に、 一般就労に向けた支援や職場への定着支援を行っています。  B型は、通常の事業所への継続雇用が困難だった人に、生産活動その他の活動の機会を提供し、 一般就労に向けた支援や職場定着に向けた支援を行っています。 障害特性に応じた支援  精神障害、発達障害、難病等、今までは支援が定まっていなかった障害、難病に関しても、支援が始まっています。 さらには、通勤の困難さがある人たちに対して在宅就業に関しての支援も始まっています。 障害者雇用に関する書籍  大型書店に行き、障害者雇用についての書籍を探したところ、約20種類が見つかりました。 共通しているのは、「障害者雇用の現状」、「障害別の特徴」、「受け入れ機関の事例」、「地域の支援機関について」、「採用活動」、 「助成金の活用」、「採用後の定着に関して」などで、多くの書籍に書かれています。 今回の特集  今回の特集では、在宅勤務を推奨する特例子会社である「沖ワークウェル」、 就職・定着をIT機器の側面から支援する「東京都障害者ITサポートセンター」、 ユニバーサル農園を実践する「京丸園」を紹介、そして後藤芳一(ごとう よしかず)さんの「3Dプリンタ成形の仕上げ」を通じて、 定着する障害者雇用とは?を、共に考えるきっかけにしていただけたら幸いです。 星川安之(ほしかわやすゆき) 参考文献 令和元年版障害者白書 https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r01hakusho/zenbun/pdf/s2_2-1.pdf 4ページ 在宅勤務という働き方  パソコン、インターネットの普及は、障害のある人たちの生活を大きく変えました。文字を音声や点字に、音声を文字に変換できることが視覚や聴覚に障 害のある人の便利さに繋がったのです。さらにソフトウェアの発達で多様な入力が可能になったことで、仕事をする場所も選択できるようになりました。  「本社の津田です。荒木さん、山崎さん、宮本さん、A社のホームページ制作の打ち合わせをしたいので、会議室3番に集まっていただけますか?」。 呼ばれた3名は、特例子会社沖ワークウェルの社員ですが、荒木さんは山形県、山崎さんは北海道、宮本さんは兵庫県に在住。自宅の仕事部屋で、 毎朝9時に自宅のパソコンを立ち上げ、ネットワークソフト、ワークウェルコミュニケータにつないで仕事に従事しているのです。 3人が集まるのはパソコン上の会議室、ソフトに9つある会議室から、指定された3番を選択するだけで、入室することができます。  同社には、現在84名の社員が在籍し、その内障害のある社員が69名、内訳は、肢体不自由50名、視覚・聴覚障害各1名、知的障害12名、内部障害3名、 精神障害2名で、その内、在宅勤務は肢体不自由48名、内部障害3名、計51名、全体の61%に当たります。  特例子会社でも「通勤できること」を、採用の条件にする会社が多いのですが、同社では在宅勤務を推奨し、採用しています。 同社の在宅勤務者の中には、重度の障害がある人が多く、パソコンへの入力も、口にくわえたスティックでキーボードをうったり、 ジョイスティック型のマウスや、視線センサーによるものを使っている人もいます。  1996年、親会社である沖電気工業(株)は、社会貢献活動を本格的にスタートさせました。 当時、企業の社会貢献活動というと、本業以外での活動がメインとされていました。 けれども、同社はそれに異を唱え、自社の強みであるITを活用することと、障害者雇用を合わせ、特例子会社を設立させたのです。 当時の特例子会社の多くは、通勤できることを採用条件にあげていました。  「通勤が困難であれば、職場を自宅にもっていけば良い」との逆転の発想で生み出したのが、冒頭のワークウェルコミュニケータです。 自宅で家族との朝食を終え、数メートル離れた自宅内のオフィスに移動し、パソコンを立ち上げれば、 一瞬にして同僚や先輩、後輩がいる会社の扉を開き、出社となるのです。  進行性の難病で、次第に身体の自由がきかなくなっても、たとえ自由になるのが小指1本でも、 その指1本で会社とそして社会とつながることができ、家族を養っていくことができているのです。 異を唱えることの意義を強く感じます。 星川安之 参考 日本経済新聞6月1日夕刊 「モノごころ、ヒト語り」 「自宅が職場、障壁を超える」 写真1:在宅勤務の様子 写真2:ワークウェルコミュニケータ 5ページ 東京都障害者IT地域支援センター  東京・茗荷谷にある東京都障害者IT地域支援センターには、障害のある人が社会参加をしやすくなるパソコン、タブレット、 スマートフォン等のITの機器やソフト約200種類が所狭しと並んでいます。展示品は、各障害者のニーズに合わせ、 「見ることを支援する」、「入力することを支援する」、「コミュニケーションを支援する」に分かれています。 各分野の機器やソフトは、最新版だけでなく、長く需要のあるものも並んでいるため、ITが日進月歩で進化していることが分かり、 今はない機器や技術でも近い将来できるのではないかと思える空間となっているのです。 例えば、キーボードで文字入力し合成音声を出せる従来の固定型の専用機の要素は、持ち運び可能なスマホやタブレットのアプリとして入れて 使うことができますが、これなどはニーズが叶った一例です。  同センターでは、自宅勤務であるテレワークを行うための機器やソフトの情報も充実すると共に、テレワークの実践も行われています。 テレワークロボットと書かれたキャスター付きのポールには約160センチの高さにタブレットが取り付けられており、自宅勤務の人が操作し、 来場者へ機器の説明を行い職員の一員としての仕事を行っているのです。同センターの堀込 真理子(ほりごめ まりこ)センター長は、 「テレワークで仕事をする在宅勤務の彼との仕事は、彼が実際に事務所にいる感覚です」と話してくれました。  以前IT機器メーカーに勤務していた堀込さんは、障害者の就労を支援する東京コロニーに転職、同コロニーが、 このセンターの運営事業を東京都から受託した2004年11月から担当になり現在に至っています。  堀込さんは、この15年で障害のある人が使える機器やソフトが増えてきたこと、しかもそれらの多くが障害者専用の機器ではなく、 一般の機器やソフトにその工夫が組み込まれてきたことを実感すると共に、入手しやすくなってきたことを嬉しく思っていると話しているそうです。  同センターの需要の高まりと比例して、当初多かった視覚障害や肢体不自由の障害関連の相談に加え、発達障害、重複障害や分類が難しい疾病の方々から の問い合わせも増えています。  多様な機器やソフトと、多様なニーズのある人達を結ぶ同センターの役割は、ますます重要になっています。 そのため同センターでは、「結ぶ場」の1つとして30種類の講座メニューを有するサポーターズカフェで実施しています。 講師であるサポーターは、センターに登録しているボランティアの人たちで、それぞれ2時間のカリキュラムを作り、ネットでその内容を紹介しています。 その講義は、障害のある人は無料で受講できます。さらに、センターでは、福祉用具の給付事業を行う東京都の市区町村に希望を聞き、 毎年出前でIT機器やソフトの講習会を開くことによって、その事業に携わる職員の情報や知識を増やしているのです。  「便利グッズ」コーナーには、サイフや手帳などに付けておくだけで、それらを無くした時、 その場所をスマホで知らせてくれる優れモノがあることも、堀込さんに教えてもらいました。  IT機器やソフトは、必要な人に必要なものを正確に伝えることが一番重要と、同センターを見学し思った次第です。 星川安之 写真1:テレワークロボット 写真2:コミュニケーション支援技術 6ページ、7ページ 進化し続けるユニバーサル農園 京丸園  ユニバーサル農園と聞いて、どんな農園を思い浮かべるでしょうか? 「それは、働く個人ごとに役割を持ち、人との繋がりの中で喜びを感じながら仕事をしながら経営を発展させていく農園です」と、 京丸園(株)の鈴木 厚志(すずき あつし)社長が教えてくださいました。 京丸園(株)  鈴木社長が13代目の代表を務めるこの農園は、400年を超える歴史ある農園です。 主な作物は、「姫ねぎ」(お寿司屋さんでは「芽ねぎ」)と「姫みつば」です。 11代目まで畑作を中心に行っていましたが、12代目の先代が水耕栽培やアイガモ農法に取り組み「進化する農園」の素を作りました。 そして、13代目の鈴木社長は、農園にさらなる広がりを持たせるため、2004年この農園を株式会社にしました。 株式会社化した目的には、「ユニバーサル農園」の実現と継続が含まれています。  京丸園は、現在4つの部門から成っています。経理、労務、営業を行う「総務部」、「水耕部」、 そして3つめがユニバーサル農園を核とする京丸園ならではの部門、「心耕部」です。  障害のある人が京丸園に入社するとまずこの部署に配属されます。 そしてこの部署では、配属された社員に向かって「この仕事をお願いします」と言う代わりに、 「あなたはどんな働き方がしたいですか?」と尋ねます。 そして「心耕部」がその要望に応えるために、会社の仕組みや使用する道具や機器を変えていきます。 それは「入社した障害のある社員が要望をしたことは、会社全体で実現していく」ことが社長はじめ全社員の確固たるモットーとなっているためです。 きっかけ  京丸園がユニバーサル農園になっていった経緯と、鈴木社長の思考の変化は繋がっています。 現在、京丸園では10代から80代の従業員100名(障害のある従業員25名)が一丸となって働いていますが、 約25年前までは、家族10人前後の農園でした。その頃、近くにある養護学校(現 特別支援学校)の先生が、京丸園を訪ねてきて、 「うちの学校の生徒を雇ってもらえないでしょうか?」と言われました。鈴木社長はそれまで、障害のある人との接点がなかったため、 何と言って断ろうかと考えた末、芽ねぎの栽培の過程を先生に見せることにしました。 横25センチ、高さ、奥行き共に2センチの横長のスポンジに20本ほど植わっている芽ねぎを、スポンジごと移しかえる作業は、 スポンジの底の部分を手で7・8回抑えながら新たな場所におさめるという職人技が必要な作業です。 それを、鈴木社長は先生にやって見せました。見せおわると先生は鈴木社長の思わくどおり、 「これはうちの生徒には無理ですね…」と、「…」を残して帰っていきました。先生が、再度京丸園を訪れたのは1週間後のこと。 下敷きをうちわのように使いながら、「これ、使えんでしょうか?」と、先生 はその下敷きを使って、先週見せた職人の作業を1回でやってのけたのです。  驚きました!と鈴木社長。これが、障害のある人を雇用するはじまりとなりました。  障害のある人を採用することで、二つ心配なことがありました。それは、他の従業員が「一緒に働きたくない」と言い出しはしないか。 もう一つが、障害のある彼らにいじわるをしないか、ということ。それが余計な心配であったことはすぐに分かりました。 従業員は、障害のある従業員が、何ができ、何が苦手かをすぐさま知り、苦手なことに関してはさまざまな工夫をこらしたサポートを始めてくれたのです。 それらは一切、鈴木社長が指示したことではありません。その空気は会社を温かくし、さらにその温かさは作業効率を高めていきました。 虫トレーラー  京丸園のモットーである「『人に仕事』を合わせる」によって、これまでにたくさんの貴重な工夫が実践されてきました。 その一つ「虫トレーラー」の開発のいきさつを、鈴木社長が共用品推進機構の機関誌「インクル94号(2015年1月発行)」で紹介してくれています。  「彼女は、特別支援学校を卒業し農園で働くこととなったのですが、あてにしていた仕事が思うようにできなかったため、 ほうきとちりとりを手渡しハウス内の掃除をお願いしました。  スピードは決して速くはありませんでしたがとても丁寧に掃除をし、草があれば取り除いてくれました。 ある日、農場職員からハウスの様子が変わってきたと報告が入りました。彼女の掃除のお蔭でハウス内に草が無くなり、 害虫が少なくなって農薬散布の回数が減ったというのです。  農業で一番つらい仕事、農薬散布が丁寧な掃除によって軽減されました。 ほうき一本で農薬の回数が減るのであれば、掃除機で虫を直接捕まえればもっと農薬を減らせるかもしれないと意見が出て、 「虫トレーラー」を開発しました。  この虫トレーラーは、作業スピードがゆっくりであればあるほど虫が捕れます。 つまり、動作がゆっくりの障害のある人にお願いしたい仕事となるわけです。 安全安心の農産物を食べていただくお客様、大変な農薬散布作業から解放された私達。 ゆっくり作業すると褒められる障害のある人。みんなの笑顔が創造されたのです。  作業に人を当てはめるのではなく、人に合わせて作業をデザインするということは、決して非効率ではないことが一つ証明されました。」 さいごに  京丸園は2007年、「アジア太平洋障害者の十年、中間年記念障害者関係功労者 内閣総理大臣表彰」、 本年11月には「2019年度農林水産祭天皇杯」を受賞されました。  1997年から始まった障害のある人との「共働」のための創意工夫、その継続を、目の当たりにすると共に 笑顔の絶えない京丸園という空間と空気に、今まで味わったことのない暖かな感動を覚えました。 それにしても、お土産にいただいた芽ねぎのおいしさが、さらに格別だったことを、最後にお伝えさせていただきます。  星川安之 写真1:水耕栽培のスポンジ 写真2:スポンジを埋め込む板(同下) 写真3:虫トレーラー 8ページ チャレンジを支える努力と工夫-特殊衣料- はじめに  (株)特殊衣料は、北海道で、リネンサプライ事業を行うために設立された会社です。創業40年現在(2019年12月)の従業員数は、パートを含めて 172名。その内、知的障害者25名、身体障害者2名、聴覚障害者1名、精神障害者1名、引きこもりだった人4名、60歳以上の人45名です。  同社は、新たなモノを作ったり、改良したりするわけではありませんでしたが、リネン類の綻んだところを直す人とミシンがあり、 この技術で、ニーズは少ないけれどもその人にとって必要な、既成品にはない仕様のモノを作るようになりました。 代表的な製品  お子さんにてんかんがある親御さんの要望から、軽くて通気性があり、洗える「保護帽」を開発し生産を始めました。 その後、衝撃緩衝材の量や場所の調整をし、日常使いができるようなデザイン性の高い「アボネット」が誕生しました。  また、「まなび体」という疑似体験セットも評判を呼んでいます。人気製品です。付属の利用案内ビデオを見れば、 専門的な知識がなくても体験できます。現在では片マヒ体験用と高齢者体験用の2タイプがロングラン製品です。 ともにはたらくための工夫  冒頭で紹介したように、特殊衣料の従業員はパートも含めて172名、そのうち29名が障害のある人ですが、この人数は国 が定めた障害者の法定雇用率(民間企業2.2%)をはるかに超えており(26.38%)、しかもその人たちの定着率は高く、 戦力として働いているのです。  障害のある人と一緒に働く一つ目の工夫は、『ともにはたらく~知的障がい者と支援者のためのマナー編~』というマニュアルの存在です。 マニュアルの冒頭で、みんなで力を合わせて行うのが「仕事」であり、「働くこと」であることが示され、決められたルールを守ることの重要性が示されています。  二つ目の工夫は、障害当事者の働く様子を見ながら、困難な仕事の際は、 どのような工夫が必要かなどを丁寧に支援するジョブコーチを積極的に配置することです。  三つ目の工夫は、1996年からはじめた保護者が集う「やよい会」の存在です。障害のある従業員の保護者が集まる機会を作ったことにより、 コミュニケーション不足によるトラブルは激減しました。  最後の工夫は、従業員全員に与えられている、職場改善の提案を誰もができる仕組みです。 まとめ  同社は、障害の有無に関わらず、社員が働きやすいように環境や仕組みを整え、さらのもっといい仕組みがあるのではないかと、 常に考えている人たちで成り立っている会社です。これから先、どんな輪が特殊衣料からさらに広がっていくか、楽しみでなりません。 星川安之 写真1:疑似体験セット「まなび体」 写真2:ともにはたらく マナー編 9ページ キーワードで考える共用品講座第114講 「共に働く―3Dプリンタ成形の仕上げ―」 (一財)機械振興協会 副会長 技術研究所長・日本福祉大学客員教授 後藤芳一(ごとうよしかず)  「クッキーやパンづくりに馴染めず通所できなくなり、引きこもりに戻る人がいる」(作業療法士)、 「モノづくりならやる気になる人がいる」(作業所職員)、「作業の前日は楽しみで、お酒を飲まずに備える」(作業者)、 「納期が重なるときに補ってくれるのは心強い」(3Dプリント企業)  筆者が日ごろ勤める機械振興協会技術研究所(東京・東久留米市)は、3次元積層造形装置(3Dプリンタ)を用いた障害者就労を行っています。3D成形は、樹 脂などを薄い層で積みあげて3次元(3D)の部品を作る技術です。鋳物の中子(なかご)や、流体機械の試作部品を作ります。  仕事の流れは、①自動車部品メーカなど→3Dプリント企業に部品作成を発注、②3Dプリント企業は、自社のプリンタで成形、③②で作業が集中したときは、3Dプリント企業→東久留米にある 障害者作業所(就労継続支援B型事業所)に一部を(下請け)発注、④成形は技術研究所の3Dプリンタで行い(成形には1日程度必要)、⑤仕上げは作業所の障害者 が研究所へ出向いて行う、という手順です。  2016年度にはじめて累計売上は300万円余になりました。 技術研究所の設備使用料と材料費に3分の1ずつ要し、残る3分の1が賃金になります。  事業をはじめたきっかけは、地元の東久留米市が技術研究所に、障害者支援で何かできないかと持ちかけたことです。 それを受けて研究所は14年に専門家を招いて委員会を設け、先例の見学や試行事業を経てはじめました。  事業には次の関係者が必要です。①仕事の発注者(意義を理解して(株)JMCほかが仕事を発注)、 ②障害者作業所(技術研究所近くの事業所数カ所)、③作業所側の専門家(作業療法士が個々の当事者を把握して研究所へ派遣)、 ④技術研究所の設備と技術の専門家(光造形式の3Dプリンタ〈約3千万円〉は研究所が保有 +研究所の職員が作業者に合わせて手順や治具などの作業環境を用 意+事業全体の枠組の設計+受注〈仕事〉の確保)、 ⑤東久留米市(全体を後方から支援)、⑥専門家の委員会(事業の立上げとその後の運営について助言、就労支援事業所、障害者就労、3D造形技術の専門家で構成)です。  技術研究所は19年度に、身体や精神の障害者に加えて知的障害者も作業できるように、 炭素の長繊維を配向できる3Dプリンタ〈約250万円〉を追加導入しました。 一連の活動は、18年から国際福祉機器展(H.C.R.)に出展して紹介しています。  神奈川の海老名地域では、神奈川県立産業技術総合研究所(3Dプリンタを保有)が中心となり、 地元の障害者作業所、社会福祉協議会、市役所とともに東久留米のような取組みを検討中です。  3Dプリンタには多くの種類があり、得意な作業も異なります。取組みが各地に広がれば、 さまざまなプリンタが揃うネットワークができ、障害者は地元で働く機会ができます。 (詳しくは、坂本将也「3Dプリンタを活用した障害者就労支援」日本生活支援工学会誌 Vol.18 No.1 2018をご覧下さい。) 写真1:作業の様子(仕上げ面(赤色)をタブレットに表示) 写真2:国際福祉機器展で紹介(2019年9月26日) 10ページ 早稲田祭とバリアフリー 早稲田大学3年 安部萌菜美(あべもなみ) 学園祭とバリアフリー?  皆さんは学園祭にどんなイメージを持たれていますか? 学生が模擬店や発表をして賑わっているという華やかな面がある一方、 学生主体であるが故にバリアフリーとはかけ離れたイベント、そんな印象を持たれている方もいると思います。  早稲田大学の学園祭、通称早稲田祭は約600人の学生で運営を行なっています。 毎年約18万人もの方が早稲田祭を訪れ、来場者の中には障害を持った方や高齢者の方も多く来ていただいています。 早稲田祭運営スタッフは、ハンディを抱えた方も含め、全ての来場者が学園祭を楽しんでいただけるためにバリアフリー活動にも積極的に取り組んでいます。 早稲田祭でのバリアフリー活動  早稲田祭のバリアフリー活動は主に2つのことに力を入れています。1点目は情報です。 視覚障害のある方のために企画や屋台の詳細を大きな文字で写真付きで紹介した「バリアフリーブック」や、 大学構内の地図を点字に訳した「触知案内図」。また、多目的トイレの位置など大学構内におけるバリアフリーの情報をまとめた 「バリアフリーマップ」など様々な案内情報媒体を作成しました。  2点目はサポートです。混み合う会場内を自力で回ることが困難な方のために、 運営スタッフが来場者に付き添って早稲田祭をまわる「ガイドヘルプ」を行なっています。 行きたい場所や食べたいものを一緒に考えることから始まり、混雑した飲食屋台に並ぶことが困難な方には購入の代行や、 車椅子やベビーカーを連れた方には専用のステージ鑑賞エリアを案内します。帰りには駅やバス停までの送迎を行うなど、 これらの様々なサポートを利用しながら、来場者が最後まで不自由なく祭を楽しむための支援体制を整えています。 また、大学内の手話サークルとボランティアサークルの学生に協力を依頼し、聴覚障害の方への手話対応や、 車椅子の介助などサポートの幅を広げています。 バリアフリーへの思い  私がこの活動に携わりたいと思ったきっかけは幼少期にあります。幼いころ卵のアレルギーを持っていた私は、 近所の祭りに行った際にはお店に必ず、食べ物に卵が含まれていないか聞いていました。その度に店の方が慌てて確認しに行ったり、 他のお客さんを待たせてしまい、なんだか申し訳ない気分になっていました。 大学生になり、ふとあの頃の自分を思い出すと、アレルギーを持っていることは何も悪いことではないのに、 自分が申し訳なく思うのはおかしいと感じるようになりました。この経験から、 ハンディを抱えた人でも周りと同じように祭を楽しめるような環境作りがしたいと思い、学園祭のバリアフリーについて取り組みました。 今年は約20名の方にバリアフリー対応を利用していただき、ガイドヘルプ利用者からは 「1人で回るよりもずっと楽しかった」という声をいただいたりと、バリアフリー活動が来場者の支えとなっている実感を得ました。 今後も誰もが楽しめる学園祭を目指して活動を続けていきます。 写真1:触知案内図 写真2:バリアフリー対応の様子 11ページ 令和元年度千代田区障害者理解促進事業(区民ホール展示)  千代田区では、毎年12月3~9日の障害者週間に合わせて、障害に対する理解を促進するため、 障害のある人と一般区民との交流を図ることを目的に、障害者の方が作成した作品の展示や区内福祉施設の広報が、 千代田区役所1階の区民ホールで行われています。  東京2020パラリンピック競技大会の開催に向けて、写真パネルでのパラリンピックの公式競技や障害者アスリートの紹介や、 パラリンピック競技用車いす試乗体験などのほか、本年は新たに聴覚障害のある少女と孤立した少年の交流を描いたアニメーション映画「聲の形」の上映や、 VR(バーチャルリアリティ)旅行体験などが行われました。  共用品推進機構は、2013年からこのイベントに出展しており、触って識別できるシャンプーやコンディショナー、ボディソープ容器などの 代表的な共用品のほか、本年は軽い力で操作できるダブルクリップやホチキス、プッシュ式で定量が出てくる洗たく用洗剤容器、 コンビニエンスストア等で販売されている洋菓子用の開けやすい容器を加えて展示しました。  今後もこのようなイベントに継続して出展し、共用品の情報提供に寄与していきたいと思います。 田窪友和(たくぼともかず) 写真1:ホールの看板 写真2:展示の様子 ダンスだいすき!から生まれた奇跡  毎年6月、中野サンプラザホールでのイベント「ブレークザウォール」の幕があがると、軽快なリズムを自分に引き付けて踊る300名 のダンサーが登場、圧巻の幕開けです。ダンスチーム「ラブジャンクス」300名の年齢は小学生から40代と異なりますが、 全身で表現する力強さは共通しています。もう一つの共通点は300人全てがダウン症のある人たちであることです。  日本ダウン症協会が、ダウン症のある人自ら意志や感情を表現する方法にと考えたのがダンスでした。 当時沖縄アクターズスクールのチーフインストラクターであった牧野アンナ(まきの あんな)さんに相談したのが19年前のこと。 その時のことを牧野さんは次のように振り返ります。  「日本ダウン症協会さんから、依頼を受け、なんの予備知識もないまま、はじめて会った彼らのパワーに圧倒されました。 それまでにもたくさんの若者を育てて来ましたが、それがどこに繋がっていくのか、見えなくなっていた時期でもありました。 ダウン症のある人たちとのレッスンは、純粋に音を楽しみ、純粋に人に楽しんでもらう、まさにエンターテイメントの原点そのものでした。 彼らを助けるつもりが、逆に彼らから元気をもらう毎日でした」と話してくれました。  彼らの魅力のとりこになった牧野さんは、関東でラブジャンクスを立ち上げ今では関東・関西・沖縄・北海道で700名以上の方が参加する 世界最大級のダウン症のある人たちのエンターテイメントチームになっています。この度、このラブジャンクスと牧野アンナさんの記録をつづった 書籍が出版されました。社会を変えるヒントがたくさんつまっています。 『「ダンスだいすき!」から生まれた奇跡』 なかのかおり著 ラグーナ出版 本体:1200円+税 12ページ がすてなーに ガスの科学館でバリアフリー検証  東京・豊洲の東京ガス「がすてなーに ガスの科学館(以下、科学館という)」。暮らしを支える「エネルギー」の特長や、 これからの暮らし・社会との関わりについて体験型展示物を通して、楽しみながら学べる施設です。 他県の学校からも、バスを数台連ねて子どもたちが見学にやってきます。 障害のある人たちと館内を見学  この科学館が、10月1日にリニューアルオープンしました。共用品推進機構は科学館で、 障害のある人たちと一緒にバリアフリーに関する検証に協力しました。  東京ガスでは、科学館のリニューアルにあたり、館内のグラフィックの制作ガイドラインを、 建築、色彩の専門家の意見も取り入れて作成し、活用しました。  そして今回、車椅子使用者、杖使用者、視覚障害(弱視・全盲)、聴覚障害(ろう・難聴) のある人たち7名が、グループに分かれて見学しました。 各障害当事者1名につき、誘導係、記録係、関係者が各々同行して、科学館内にある35箇所のコーナー、設備について、良い点、 悪い点、楽しいか楽しくないかを話しながら3~4時間かけて検証を行いました。 「これが面白いんですよ!」  検証の際、テーブルの高さ、音声の使い方、文字表示の高さなど、障害当事者から意見が挙がりました。 電動車椅子のバッテリー充電ができるとよい、と言った意見もあり、これからの科学館の改善点が抽出されました。 さらに見学から数日後に、この検証に関わった人たち全員で、意見交換会を行いました。 見学のときのコメントとは別に、あとで思いついたことや感想も交えて会は進んでいきました。  東京ガスの武重旭(たけしげ あきら)さんは、弱視の芳賀優子(はが ゆうこ)さんと館内を回りました。 その芳賀さんから、「武重さんは、そのコーナーの説明を始める前に、“芳賀さん、ここが面白いんですよ!”っていうから、 どんな内容なのかもわからないのに楽しくなってしまうんですよ」とコメントがありました。 全盲の加藤満裕美(かとう まゆみ)さんも「一緒にいる人が楽しんでいると自分も楽しい」と話していました。 スタッフが館内を案内することもあると思います。 科学館のスタッフが科学館を楽しいと思っていると来場者も楽しめる。改めて、そんなことも教えてくれました。 標準化でサービス向上を 「障害のある人もない人も同じように楽しめること」。これを目標に、 2005年の愛知万博から始まった当機構の共用サービス向上のための事業は続いています。 2019年7月に、標準化に関する法律が工業標準化法から産業標準化法に変わりました。 今後はサービスに関連したJISも作成できるようになり、新しい取組みでサービス向上に貢献したいと思います。 金丸淳子(かなまるじゅんこ) 写真1:入り口の表示 写真2:科学館を見学する子どもたち 写真3:検証後の意見交換会 13ページ ねりまユニバーサルフェス「第3回みんなのUDパーク」 共用品推進機構 個人賛助会員 浅和 一雄(あさわ かずお)  2019年12月14日に「ねりまユニバーサルフェス『第3回みんなのUDパーク(以下、UDパーク)』」が 練馬区立区民・産業プラザ ココネリ3階で開催された。私は共用品推進機構の皆さんと共に、昨年に引き続き、 お手伝いをさせていただいた。  練馬区では「ねりまユニバーサルフェス」というUDをテーマとした8つのキャンペーンイベントを展開しているが、 この「UDパーク」はこのキャンペーンの大トリという大役を果たすイベントである。 「UDパーク」の試み  「UDパーク」は「全ての人が楽しみながらUD(ユニバーサルデザイン)を知り、体験することができるイベント」を目指している。 「全ての人」というのは、高齢者も、子供も、障害のある人も無い人も、外国人も、妊婦も、子供連れの家族も… とにかく「全ての人」に楽しんで貰わないといけない。こんな大それた目標を掲げているので、今回で「もう3回目」になるのだが、 課題はまだまだたくさんあり、この目標の達成に向け、今年もいくつかの施策が試みられた。  その一つに、「プレUDパーク」の開催があった。これは練馬区立豊玉小学校と南町小学校の4年生の皆さんに、 2学期を中心に①共用品(UD)を知る、②障害当事者の方との交流、③体験学習(高齢者や妊婦の疑似体験、白杖での歩行体験など)、 ④まち探検(駅、図書館、スーパーなどでのUDを知る)、⑤UDスポーツ体験(南町小学校)などを学習していただき、 その成果を皆さん自らに発表していただく、という内容である。  驚いたのは、皆さんの着眼点の鋭さと、何よりも発表(プレゼンテーション)の見事さだった。 講評された河相富貴子(かあい ふきこ)さんや金澤茂雄(かなざわしげお)さん(二人とも全盲)も 「これまで不便さは努力と工夫で解決してきたが、発表をお聴きして、とても力強く感じた」などと大絶賛をされ、 発表の最後を締めくくった「できることから始めていきます」という皆さんの宣言に、盛大な拍手が贈られた。  そして、本番の「UDパーク」でも、観覧する上で配慮を希望される方への対応可否一覧を作成し、 障害別に対応ができているかを真摯に判断した。そして、対応が出来ていない点を出展者の皆様とも共有し、 解決策の検討などをお願いした。 ***  最後に、誠に勝手なお願いがあります。「UDパーク」は確かに「もう3回目」なのですが、 ご来場のお客様には、「まだ3回目だから」という温かい目での応援を、引き続き宜しくお願いしたいと思っています。 写真1:プレUDパーク 写真2:UDパークでの風船バレー 14ページ 「文京つながるメッセ2019」共用品ブース3度目の出展  2019年11月16日(土)、「文京つながるメッセ2019」に3度目となる共用品のブース出展をしました。  昨年度は共用品推進機構の活動を紹介するプレゼンテーション方式でしたが、今年は一昨年と同じブース出展となりました。 たくさんの子供達をはじめ、多くの地域の方々に楽しんで共用品を知っていただけるように、クイズへの参加を呼びかけました。 シャンプーのきざみや、ボディソープ印に感激!  当日は晴天で、開場から間もなく、聴覚障害のある人達や、視覚に障害のある人達が共用品推進機構のブースにも興味を持って下さいました。  特別支援学校に通う子供達も、率先してクイズに参加してくれ、たくさんの工夫を見つけると、 友達や家族と笑いあったり教えあったりして、ブースは賑やかな笑い声に包まれました。 主催者と参加者が一致団結  来場してくださった方の中には普段、点訳、通訳、ガイドなどのボランティアをされている方も多く、 「たくさんの工夫を知ることができて楽しいブースね」と喜んでいただきました。 また、弊機構が作成した「かしわ餅の表紙のパンフレット」も大好評で、江戸時代から続く共用品の工夫に感心されていました。 私達も出展されている団体の話を聞いたり、体験をさせていただきましたが、皆さん、とても素晴らしい取り組みをされていました。  また出展に際しては、文京区社会福祉協議会文京ボランティア支援センターの方々より細やかな配慮をいただきました。 地域における情報発信については、その地域の方々と共に協力して行うことが大事ですが、 職員の方の一緒に盛り上げていこうとする気持ちが伝わってくると、私たちももっと頑張ろうという気持ちになります。  今後も皆様のご協力をいただきながら、継続して出展し、情報発信をしていきたいと思っています。 森川美和(もりかわみわ) かしわ餅のパンフレットURL http://www.kyoyohin.org/ja/kyoyohin/about_kyoyohin.php 写真:当日の様子 15ページ ハッピーパッケージ  一昨年、大阪で行われた表皮水疱症友の会(DebRA Japan)主催の全国交流会において、 2つの家族に贈られたのがハッピーパッケージだ。 明るいピンク色で特製のパッケージを開けると、皮膚に優しい身の回りのモノ、口腔ケアや入浴時に便利なモノ、 皮膚ケアに必要なモノ、知育玩具などが12点入っていた。受け取る二組の家族に笑みが浮んだ。表皮水疱症(EB)は、少しの刺激や摩擦で、 全身の皮膚や粘膜が容易に剥がれ、水泡(みずぶくれ)やびらん(ただれ)が繰返しできる遺伝性の難病で現在、完治する治療法はない。  日本では希少難病に指定され、患者数は1000人から2000人と推定されている。 同会の代表であり設立者でもある宮本恵子(みやもと けいこ)さんは17年前、表皮水疱症と診断された。 毎日が工夫の連続だった。肌を傷めない衣服を探す、皮膚に負担のない操作部のついた日用品を探す、などである。 また、表皮水疱症の専門医は、日本に3人しかいない。そのため、皮膚科に行っても、日常生活での不便さや、 ましてその不便さを解決しているモノがどれかを把握していない場合がほとんどである。 そのため、SNSや交流会を通じて、家族、本人にも協力を依頼し、皮膚に優しいモノの情報を集め、 一方で様々なメーカーにも協力を求めた。そんな経過で、表皮水疱症をもつ赤ちゃんに適した誕生祝福向けパッケージを実現したのである。  しかし、本当のスタートはこれからである。家族がこの会を知る方法、モノのバリエーションを増やすこと、 そして、他の難病への波及など、多くの人の情報共有が望まれる。 星川安之 写真:ハッピーパッケージ 弊機構職員金丸淳子が令和元年度産業標準化功労者表彰を受賞  令和元年10月8日に、弊機構職員金丸淳子が、「産業標準化功労者表彰(産業技術環境局長表彰)」を受賞しました。  「産業技術環境局長表彰」は、我が国における国際標準化・産業標準化活動の発展、我が国の国際標準化を推進するための規格の作成等の活動に寄与しており、 かつ、今後とも継続的に同分野における活躍が期待できると認められた者に対して行われるものです。  この度、金丸が受賞した「産業標準化功労者表彰」は、「産業技術環境局長表彰」の中でも、産業標準化制度、 適合性評価制度の発展及び活性化、普及・啓発、教育・研究等に寄与し、 他の模範となる功績を残したと認められる企業、団体、大学等の職員・研究者等の方及び組織等を表彰するもので、 個人の部での受賞となりました。  これまで10年以上に亘り、日本産業標準調査会(産業標準化法に基づいて経済産業省に設置されている審議会で、 産業標準化全般に関する調査・審議を行っている〈JISC[ジスク]〉)において、高齢者、障害者に関する調査実績による知見を基に、 当該分野の規格等の開発に貢献し、JIS法改正に伴い日本規格協会内に設置された、サービス分野の委員会においても、 委員として活動していることが高く評価されました。  今回の受賞は、これまでの功績を称えると共に、今後の活躍が期待されるものですが、これも、ひとえに皆様のご協力の賜物です。 本誌にてお礼を申し上げますと共に、ご報告致します。 森川美和 写真:表彰式の様子 16ページ 子供たちに伝えること 【事務局長だより】星川安之 昨年11月、東京杉並区で行われた「すぎなみフェスタ」では、「杉並で見つけた良かったこと調査」の結果をイラストにしパネルで紹介するコーナーが設置されました。 調査結果に加えて「あなたが街で見つけた良かったことを教えてください」の問いかけと共にポストイットを用意したところ、 「目の不自由な人が階段を使用していた時、通行人が声をかけ手をさしのべていた」、 「銀行のATMコーナーで、杖をついた人がカードを出せなくて後ろに列ができたが、 次の方が『ゆっくりで大丈夫ですよ』と声をかけていた」など多くの声が子供たちから寄せられました。  電車に座って文庫本を小型のルーペで読んでいた芳賀優子(はが ゆうこ)さんの右隣で、 小学3~4年の男の子がそのまた右隣りのお父さんに「お父さん、あれなに?あれなに?」。 そのお父さんが一言「おばさんに聞いてみたら?」。その会話を聞いていた芳賀さんは 「坊や、これのこと?」とルーペと文庫本を渡すと、彼は「字がでかい!」、 次に自分の手のひらを見ると「汚ったな~い!」と興奮、知らないことを知った喜びが芳賀さんに伝わり会話に発展。 降りる駅が同じ駅と知った男の子は駅に着くなり、芳賀さんの手をとり車内からホームへ、 ホームから階段、階段から改札口まで楽しそうに誘導していったとのこと。 改札口で「またね!」と芳賀さんに挨拶する男の子の後ろでお父さんが 「知らないことをおしえてくださってありがとうございました」と弱視の芳賀さんに伝えたそうです。  電車のおもちゃ「プラレール」(タカラトミー)は、昭和34年に発売されました。 曲線のレールを8本つなげると当時、多くの家庭にあった「ちゃぶ台」に収まる大きさで、 それは今も変わっていないため、今でも当時のレールと繋ぎ合わせて遊ぶことができます。 その後、駅、踏切、鉄橋、立体交差、トンネル、橋などが部品として加わり、遊びの世界をひろげています。 さらに最近のプラレールの電車のホームには黄色の点字ブロックや、ホームドアが付き、 共生社会にむけて社会の取り組みが反映されているのです。 また昭和42年に販売がはじまった「リカちゃん」人形のシリーズの「チャイムでピンポーン♪かぞくでゆったりさん」では、 お風呂のセットの中にあるシャンプー容器の側面に、「共用品」の代名詞ともなっている 触ってリンス容器と識別するための「ギザギザ」が付いているのです。 このギザギザ工夫は、約30年前に花王(株)から始まり、現在、ほぼすべてのシャンプーに反映されています。 全ての人が暮らしやすい共生社会の実現には、多くの人が知り、考え、行動することが重要です。 その最初のきっかけである「知る」ための情報を提供することは今、共生社会に向けて活動している全ての大人たちが行えることではと、 今回紹介したモノやコトを知って思った次第です。 共用品通信 【イベント】 文京つながるメッセ(11月16日) 千代田区障害者週間展示(12月3~10日) 練馬区「プレUDパーク」(12月13日) 練馬区「みんなのUDパーク」出展(12月14日) 【講義・講演】 共用品授業 特別支援教育総合研究所(11月7日、森川) 共用品授業 川崎市立橘中学校(11月8日、森川) 千代田区講演会(11月11日、星川) 共用品授業 長野県丸子修学館高等学校(11月14日、田窪) 共用品授業 埼玉県正智深谷高等学校(11月20日、田窪) 共用品講演 全難聴大会(11月23日、星川) 共用品講座 日本工業大学(11月26日、星川) 共用品講演 大和リース(11月28日、12月2日、星川) 共用品講座 日本福祉大学スクーリング(11月30日、12月1日、星川・森川) 共用品授業 練馬区豊玉小学校(12月6日、森川) 共用品授業 学習院女子大学「ボランティア演習」(12月16、森川) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 (10月29日)こころの目線を合わせる 時事通信社 厚生福祉 (12月3日)白いルービックキューブ トイジャーナル12月号 バリアフリー演劇結社ばっかりばっかり 福祉介護テクノプラス 12月号 特殊衣料 アクセシブルデザインの総合情報誌 第124号 2020(令和2)年1月25日発行 "Incl." vol.20 no.124 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation), 2020 隔月刊、奇数月に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGAビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:http://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 事務局 星川安之、森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、田窪友和 執筆 浅和一雄、安部萌菜美、後藤芳一 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙写真 京丸園㈱ 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、 非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権侵害になります。