インクル第127号 2020(令和2)年7月25日号 特集:テレワークと共用品 Contents 令和元年度共用品推進機構事業報告 2ページ テレワークについて 4ページ change(変化)からchance(可能性)へ~テレワーク視覚障害者編 5ページ グ~タラ人間のテレワーク実践報告 8ページ 意外と効果を実感 オンライン研修!! 9ページ 夜のラジオ体操部「ちょっと」 10ページ オンライン チャレンジド・ヨガ 11ページ コロナ禍と公共交通機関におけるバリアフリー 12ページ キーワードで考える共用品講座第117講 13ページ コロナ禍での障害者運動 14ページ シャンプー容器のギザギザ、共用品の生みの親 青木誠さんを偲んで 15ページ 事務局長だより 16ページ 共用品通信 16ページ 2ページ 令和元年度共用品推進機構事業報告~調査研究、標準化の充実と普及の推進~  共用品推進機構は、共用品・共用サービスの調査研究を行うとともに、共用品・共用サービスの標準化の推進及び、共用品・共用サービスの普及啓発を図っています。 さらに製品及びサービスの利便性を向上させ、高齢者・障害のある人々を含めた全ての人たちが暮らしやすい社会基盤づくりの支援を行うことを事業の目的としています。 目的に従って令和元年度に行った主な事業は、以下の通りです。 1.共用品・共用サービスに関する調査研究 (1)障害児・者/高齢者等のニーズ把握システムの構築・検証  製品・サービス・システムに対して、障害児・者、高齢者等のニーズを把握、確認するためのアンケート調査、ヒアリング、モニタリング調査をシステム化し、 製品・サービス・システム供給者と需要者が連携できる仕組み案を検証した。 ①障害児・者/高齢者等の日常生活環境における不便さ等の実態把握(調査方法)の構築検証・実施  「良かったこと調査」として、「屋内外のトイレにおける良かったこと調査」及び「地域における良かったこと調査」(千代田区・練馬区)を実施した。 更に、平成30年度までに行ってきた障害のある人・高齢者等のニーズ等を把握するための不便さ調査及び良かったこと調査等のアンケート項目の分析を行った。 また抽出した共通の質問事項の有効性を、実施方法、対象者等の違い等を加味し、実践を通じて検証した。 ②共創システム及びモニタリング調査システムの構築・検証  これまでに行ってきた共用品モニタリング調査を基に、障害当事者団体・高齢者団体等と連携し、関係業界、関係機関(業界団体、企業、公的機関等)が 共用品・共用サービス・共用システムに関するモニタリング調査を簡易に実施するための支援システムを試行し、 更にこの支援システムを恒常化するために必要な事項の分析を行い、合理的且つ有効なモニタリングの実施方法を検証した。 (2)共用品市場調査の実施  継続して実施してきた共用品市場規模調査及び手法に関しての分析を引き続き行い、調査対象の範囲並びに、今後共用品を普及するために必要な事項の課題抽出を行いながら、 令和元年度の共用品市場規模調査を実施した。また、共用サービスにおける市場規模の調査の可能性を検討した。 2.共用品・共用サービスに関する標準化の推進 (1)規格作成 ①アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)国際規格の作成及び調査・研究  平成30年度までに行ってきた国際標準化機構(ISO)内のTC173(障害のある人が使用する機器)及びTC159(人間工学)に、新規規格作成の調整と共に提案を行い、審議を開始した。  ⅰ.消費生活用製品のアクセシビリティ評価方法、ⅱ.視覚障害者用取説、ⅲ.不便さ調査等共通設計指針等に関してTC173のメンバーへ規格説明を行った。 ②アクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)JIS原案作成及び調査・研究  アクセシブルデザインの共通基盤規格、デザイン要素規格のJIS原案作成における全体像の検証及び整理を行った。また、日常生活における不便さ・便利さ調査の標準化に向けた作業を行った。 ③共用サービス(アクセシブルサービス)の国内標準化に向けた調査・研究 (2)関連機関実施のアクセシブルデザイン(高齢者・障害者配慮設計指針)規格作成及び調査研究に関する協力  令和元年度は、アクセシブルデザインに関係する調査・研究並びに規格作成を行っている機関と連携し、アクセシブルデザイン標準化への協力を行った。 3.共用品・共用サービスに関する普及及び啓発  開発・販売・市場化された共用品・共用サービス・共用システムを広く普及させるため、データベース、展示会、講座、市場規模調査、国際連携等、平成30年度までに実践してきた事項を基に行った。 (1)共用品普及のための共用品データベース作成・維持・発展  平成30年度までに行ってきた共用品のデータベースの試行を基に、障害のある人を含む多くの消費者が、的確な共用品を選択できる仕組みを構築するため、 使いやすさや検索のしやすさについて検討を行い、データベースを構築し試行の準備を行った。 試行の際、これまで作成してきた高齢者・障害者配慮設計指針の日本工業規格(JIS)、ISO/IECガイド71、関係業界の高齢者・障害者配慮基準等、 関係機関と協議し作成した共用品(=アクセシブルデザイン)共通基準(素案)を基に作成した共用品の使用性評価制度を基に検証を始めた。 (2)共用品・共用サービス展示会の実施  平成22年度に作成した「高齢者・障害者配慮の展示会ガイド」を活用する展示会主催者に協力し、展示会における高齢者・障害者配慮の実践を継続した。 また、共用品の展示に関しては、展示会を実施しより多くの人たちに共用品及び共用品の考え方の普及を継続して行った。(練馬区・文京区・杉並区・国際福祉機器展等) (3)共用品・共用サービスに関する講座等の実施・検証  平成30年度までに実施してきた共用品・共用サービスに関する講座に関して①対象(企業、業界団体、アクセシブルデザイン推進協議会=ADC)、一般市民、就学前の子供~大学院生等ごとに、 ②伝える事項(コンテンツ)、視覚的ツール(共用品のサンプル、PPT、ビデオ等)、配布資料等を用意し、講座を実施した。 更には、より多くの機関で、共用品講座を行えるような仕組みを構築し継続して検証した。 また、平成29年1月1日に発足した共用品研究所と、共用品に関する研究の情報共有を図った。 (4)施設における共用サービス・共用品の普及・啓発  平成30年度までに実施してきた施設における共用サービスの普及事業を、各種施設で継続して実施した。 (5)国内外の高齢者・障害者、難病等関連機関との連携  令和元年度は、国内外の関連機関と連携をし、各種情報を共有し、共用品・共用サービスの普及を図った。(アクセシブルデザイン推進協議会等) (6)障害当事者等のニーズの収集  平成30年度までに実施してきた障害のある人達を対象としたアイディアを継続して収集し、障害のある人たちのニーズを把握し、アイディアを通して共用品の重要性への認識を深め普及を促進した。 (7)共用品・共用サービスに関する情報の収集及び提供  当機構の活動や収集した関係情報を掲載した機関誌、電子メール、ウェブサイト、各種媒体などで情報を継続的に提供した。  平成30年度までに収集した資料、情報を整理してより多くの人達に情報提供すると共に、新たに入手する情報に関しては、内容、体裁、発行頻度を再検討し、より効果的な形で配信を行った。 配信した情報は、項目ごとに整理し今後の共用品・共用サービスに関するあるべき姿を検討するために分析を行い、各委員会等の資料として提供し、 更にウェブサイトに当機構の活動や共用品情報を掲載し広く活動を知らせた。 4ページ テレワークについて コロナ禍  新型コロナ禍の中で、人々の生活は大きな変化を余儀なくされています。 三密を避ける、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保、不要不急の外出を控える、外出時はマスクを着用、手洗い・うがいの徹底といった個人の生活習慣から、 卒業式、入学式・入社式の中止または代替手段、各種イベント、展示会の延期・中止、さらには、外食、旅行、宿泊、交通、さまざまな機関と機能が止まり、実施しても大幅な縮小を強いられました。  個人の生活様式と共に変わったのが、仕事様式です。出社はローテーション式にして7割から8割人数を減らす、公共交通の利用も、ラッシュ時を避けるなど、 どこか遠い存在だと思っていた「テレワーク」が、多くの人の身近になったのです。 テレワーク  平成25年に一般社団法人に移行した日本テレワーク協会では、テレワークを、「情報通信技術(ICT)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」とホームページで紹介しています。 「tele=離れた所」と「work=働く」をあわせた造語である「テレワーク」は、働く場所によって、自宅利用型テレワーク(在宅勤務)、 モバイルワーク、施設利用型テレワーク(サテライトオフィス勤務など)の3つに分けられます。  同協会では、コロナ禍以前から、テレワークの効果を次の7つに分類し紹介しています。 1.通勤減少でオフィスの省力化、2.計画的・集中的な作業実施による業務効率の向上、3.家族と過ごす時間、自己啓発の時間の増加、4.育児期、介護期等の働きやすい環境、 5.オフィスコストの削減、6.退職した高齢者・通勤が困難な障害者・遠方移住者などの新規雇用の創出、そして7番目に、非常災害時やパンデミック(感染症流行)時における事業継続とあります。 テレワーク川柳  さらに、同協会ではテレワークの普及をはかる一環として、2019年度に川柳を募集したところ、13歳から88歳まで全国から767作品の応募がありました。 グランプリ賞は、「モバイルの やり方わからず 出勤し」ピエ助さん、準グランプリ賞は、「茶の間から 出した指令に 社が動く」澄海さんと、コロナ禍以前のため、のどかな作品が多いですが、 コロナ禍で、はじめてテレワークを行った人の心情に近いものも多くあります。 2019年度「テレワーク川柳」とウェブでひけばご覧になれます。 アクセシビリティ  コロナ禍では、障害の有無、年齢には大きくかかわりなく、多くの人がテレワークを行いました。 通勤がないことは、障害のある人たちにとって物理的・心理的には、歓迎する声があがっています。 一方、「最初は、楽だと思ったけれど、通勤時間は、本が読めたり、考え事をするには良い時間だったんだと思った」の意見も聞かれます。  会議は、数種類のソフトがある電子会議を、使用する人が急激に増えた印象です。 今までも国際会議などでは、利用されはじめていましたが、自分とはまだ遠い存在と思っていた人も、利用しなくてはならない状況になりました。 食わず嫌いだった人も、「こんなに便利だと知っていたら、もっと前からやったのに」という声もある反面、アクセシビリティの面で、障害のある人の中では、使いづらいという人もいます。 今回のインクルの特集「テレワーク」は、どんなふうに、テレワークに取り組んでいるか、いくつかの取り組み事例を紹介しています。 是非、皆さまの体験もお寄せいただけたらと思います。 星川安之(ほしかわ やすゆき) 5ページ change(変化)からchance(可能性)へ~テレワーク視覚障害者編 (社福)国際視覚障害者援護協会 芳賀優子(はが ゆうこ) はじめに  音声読み上げ、画面拡大ソフト、ユーザー補助の拡充により、ITを利用する視覚障害者が増えています。 世の中がテレワークにシフトせざるを得なくなるや、果敢にそれを味方にしています。 年代、性別、勤続年数の違う職業人3名にインタビューをしました。 ・社内ネットワークをつくってサポートし合う 川嶋一広(かわしま かずひろ)さん、ほぼ全盲、大手IT企業20年勤務  全社で環境を整備した直後だったこともあり、3月から現在に至るまで、テレワークを続けています。  ほとんど見えていない川嶋さんには、会社のリアル勤務もテレワークも、変化はあまり感じない様子。 オンラインで新入社員研修の「視覚障害理解」を担当しましたが、参加者一人一人が画面に表示される機能や読み上げ機能で分かるし、 こちらから指名して発言してもらうなど工夫をしたことで、リアルよりも双方向で伝わる研修になりました。  また3~4年前から、同じ社内やグループ企業で働く20人ぐらいの視覚障害社員とネットワークをつくって、 音声ソフトや画面拡大機能を利用した基本ソフトやアプリの使い方、トラブル時の対処の仕方などについて、勉強会や情報共有もしています。 IT環境が同じ、守秘義務の問題もクリアでき、今はテレワークソフトの使い方、困ったときのサポートなどをお互いにし合っています。 会社との連絡は、一人一台貸与されているスマートフォンでのチャット。 テレワークに必要な機器を会社負担で購入する福利厚生制度も導入されました。  「こんな時どうしたらいい?」という相談が、ベテランの川嶋さんに多数寄せられていました。 それらに対応しているうちに、「視覚障害ならではの課題や困りごとだから、ネットワークをつくって、みんなで教え合えばいいんじゃないか」と思うに至り、即実行。 メーリングリストで情報を共有し、テレワークソフト上で実際に教え合っています。すごいことをサラッとやってしまう、まさにベテランのなせる業です。  健康管理とモチベーションの維持が課題。オンライン飲み会、グループ電話などを利用して仕事以外のコミュニケーションに努めています。 感染が収束したら、思いっきり運動と外食を楽しみたいと話します。 ・仕事や買い物は不要不急の外出! 原利明(はら としあき)さん、弱視、大手建設会社30年勤務  会社として、3月からテレワーク移行に舵を切り、ご自身は4月9日から完全にテレワークにしました。 6月からは、感染防止ではなく働き方改革の検討期間として継続しています。 3月に1日テレワークを体験するも、「仕事の人恋しさ」を感じて今一つ合わないと思った原さんですが、4月からの完全テレワーク時に腹をくくりました。 ご自身の状況をしっかり見据えて、オンラインでできる環境を構築。ほとんどの業務がテレワークで可能と判断、社内外の会議や各種委員会もオンライン参加、 生活面では普段利用しているお店で利用できるアプリを調べて登録、趣味のドラムも自ら提案してオンラインレッスンに切り替え…。 移動に費やしていた時間を自分の豊かな生活に活用し、今ではストレスなくテレワークライフを堪能。遠方のオンラインセミナーにも、移動を気にせず参加しています。 オンラインに切り替えたら、遠方からの申し込みが一気に3倍増えたケースも。  所属部署は、ISOトップクラスのセキュリティーを準拠。外での仕事が多く、音声ソフトを利用するため、3年ほど前から部内専門のサポートチームとともにIT環境を整えて業務に取り組んで来ました。 接続が不安定、パソコンの不具合などのトラブル時は、チャット等で連絡を取り、遠隔サポートを受けます。  今後のテレワークについて、「移動の在り方が大きく変わり、障害のある人たちの通勤や通学のバリアを、採用や入学拒否の理由にできなくなるのではないか? ある意味、実力勝負ができるようになる可能性が高い。一方で、情報リテラシーの差が、生活の格差にもつながるようになるかもしれない」と分析します。 環境の変化に、自分で戦略を練って切り込む、職業人魂が見えます。バンドメンバーと思いっきりライブとリアルな飲み会ができる日を、心待ちにしています。 ・テレワークが機会提供と共生の場に 奈良里紗(なら りさ)さん、弱視、大学非常勤講師4年、個人家庭教師10年以上  大学では3月からテレワーク開始。10年ほど前からSkypeを活用して家庭教師を行っています。 子育て真っ最中の彼女にとって、移動の必要がなく、自宅で仕事ができるテレワークは、とにかく楽だといいます。 家事の段取りやベビーシッターの手配などで忙殺されることも、仕事先の環境に左右されることもなく、弱視の自分に最適な大型のデスクトップパソコンで仕事ができるのは、大きなメリットです。 「視覚障害教育」を教える授業でも、生活の場でのリアルな学びが可能になり、自宅にある紙コップで弱視シミュレーショングッズの作り方なども伝えています。  一方、仕事先ごとに、使用しているテレワークソフトが違うので、それらすべての画面構成、使い方を、パソコン、タブレット、スマホごとに覚えなければならないのが、弱視ならではの大変さです。 また、Wi-Fiが弱くなってしまい、学生が音声をうまく聴き取れなくなったときに、それに気づけないことも。 何か異変があったら、すぐに伝えてもらうように、学生とルールを決めたうえで授業をしています。 学生のニーズに応じてチャットで授業をすることもありますが、自分の目が疲れてしまうことも。  愛知県在住の奈良さんは、首都圏とそれ以外の地方の情報、環境格差を痛感しています。 首都圏一極集中は、視覚障害分野も同じ。住んでいる場所によって、人生が左右されるといっても過言ではありません。 「移動の負担や場所をワープできるテレワークは、参加の機会を増やし、それが刺激につながるかもしれない。 見えないからできないのではなく、機会が与えられないからできないのです」と明確に言い切ります。 10年以上続けているオンライン相談会の中から、家族も自分も弱視という障害をよく理解できなかった若者が、 様々な視覚障害者と対話することで、自立へと歩んでいった事例を紹介してくださいました。 相談に応じてくれる当事者を、彼女がコーディネートしたのです。  学校が休校になったので、オンラインの料理教室を企画。料理研究家のお母さんに講師を依頼し、野菜の肉巻きとカスタードクリームを作りました。 具の野菜を変えたり、レシピ通りつくることにこだわったりと、子どもたちはそれぞれ個性を出して、毎日楽しみながら率先して作っていると、大好評でした。 だからこそ、教育現場では緊急事態宣言が解除されたから終わりではなく、対面とオンライン、それぞれの良さをうまく組み合わせて効果を出す方向にもっていく必要を強く感じています。  「テレワークにもマナーがあります。生活音のミュート、身だしなみなど、気になったことはぜひ教えてほしいのです。 見えないから仕方がないではなくて、お互いに一緒に気持ちよくやろうということを、私は大事にしたいからです」。  10年以上も前からテレワークを活用して共生を模索し、ご自身はフォロー役に徹してきた奈良さんの、心がこもる言葉です。  全体を通して、高い職業意識と、変化や困難にはただでは転ばないしなやかさを感じました。お三方が異口同音にあげたことが3つあります。 ①移動のあり方が劇的に変わり、本来の仕事に能力を集中できる  視覚障害者の不便さの一つが移動です。毎日の満員電車通勤や外出、出張の支援、労働と福祉の移動支援制度の問題、これらは本来の仕事とは関係のない要素です。 その呪縛から解かれて、職業能力そのものを発揮できる環境がテレワークで整うことは、大きなチャンスです。 視覚障害者には、職業人として日々の研鑽が求められるのは、言うまでもありません。 ②働き方や自分に合ったITサポートが得られるかどうかがカギ  緊急事態に入るや、周りの視覚障害の友人たちが、Zoomというソフトを使い始めました。 よく調べてみると、以前からテレワークソフトを利用していた人たちが中心になって、メーリングリストなどで使い方を投稿したり、会議やウェブセミナーを開くなど、情報やノウハウ共有の場を設けています。  Zoomをはじめとする米国製テレワークソフトは、キーボード操作、音声読み上げソフトに対応し、視覚障害者の利用へのアクセシビリティーが担保されています。 合衆国リハビリテーション法第508条が、その根拠です。日本でもその恩恵を受けられることに、法律の持つ意義を考えさせられます。 ③ペーパーレスや押印の電子化等、働く視覚障害者には好ましい方向  視覚障害者を泣かせるもう一つの不便さは、日本社会に根強く残る「紙ベース&印鑑至上主義文化」です。 職業人であれば、職場のITリテラシーが自身の職務パフォーマンスに直接影響してしまいます。 今回、電子化の遅れによる事務効率の課題が浮き彫りになりましたが、誰よりも早くからこのことに気づいて、 真正面から解決策を探し続けてきたのが、視覚障害のある職業人たちかもしれません。  日本の「電子化」のキーとなるのは②で上げた「アクセシビリティーの担保」です。  課題は、IT機器が使える人と、使えない人との間で、生活の質に大きな差が生じかねないことです。 法整備だけでは解決が難しいと思います。見えなくても使い勝手の良い機器の開発、住んでいる地域や職場で、自分に合ったITサポートが受けられる体制が必要です。 そして何よりも、「やってみたい!」と希望が持てる環境づくりが、視覚障害者の背中を押すに違いありません。  「change(変化)はchance(可能性)」です。 写真:インタビューの様子 8ページ グ~タラ人間のテレワーク実践報告 某IT企業特例子会社勤務 岡田正敏(おかだ まさとし) 夢が叶ったテレワーク  私は10年ほど前に脳出血で倒れ左半身不随になり、仕事もクビになりました。 再就職活動も連戦連敗でしたが、某IT企業が障害者を雇用する特例子会社に何とか拾ってもらいました。  この会社は、もともとネット環境が整っているので、今回のコロナ騒動でのテレワーク導入は比較的スムーズに対応できました。  実は、元来グ~タラ人間の私は、自宅で仕事をする事が長年の夢で、障害を持ってからは、身支度の苦労や通勤の不安を抱えて、その思いは増していました。 上司にも何度か「テレワークを導入しませんか?」と提案していたのですが、なかなか受け入れてもらえませんでした。  今回のコロナ騒動がなかったら、私の夢は叶わなかったと思います。 障害を持った事も、連戦連敗の再就活も、コロナも、人生何が幸せか分からないものだと改めて感じています。 テレワークでの工夫点  私のようなグ~タラ人間がテレワークになると、自堕落な生活に陥る事が懸念されます。 私自身も当然その自覚がありますので、一日の過ごし方には厳格なルールを自分に課し、会社に出勤する場合と同じように行動する事にしました。  朝は、同じ時間に起きて食事をします。もちろん着替えもしますが、ワイシャツとスーツではなく、好きなプロ野球チームのトレーニングウェアを着ます。 これなら片手での着替えも楽ですし、テンションも上がります。  そして、いつもと同じ時間に家を出ます。向かう場所は、会社ではなく近くの公園です。 実は、私にとって通勤時の歩行は、機能訓練の大切なリハビリなので、同じ位の距離を公園で散歩してから、自宅に戻ります。  勤務はスマホのアラームを鳴らし、会社と同じ時間に同じように仕事をします。ただ一つ違うのは、自分の好きな歌を聴きながら働いている事です。 ストレス解消にもなり、意外と仕事も捗っています。ちなみに歌はスマートスピーカーで鳴らしています。 これなら、「△△の歌を聴かせて」と言うだけで簡単に選曲できますし、「いい天気だね」「お腹すいたね」等と話しかけると、意外な言葉で返事をしてくれるので、一人でも結構楽しく仕事が出来ています。  質問や打ち合わせが必要な時は、チャットやオンライン会議で事足りますし、資料等を画面に映しながら会話ができるので、むしろこの方が良いくらいです。 同僚とのコミュニケーションはLINE等でも出来ますし、オンライン飲み会も本当に楽しいです。テレワークで孤独や不便を感じた事は全くありません。 心配なのは、明らかに邪魔者を見る目で私を見る妻の事だけです。 テレワークの課題  我が社が、テレワークを導入出来たのは、もちろん「ネット環境」が整っていたからですが、もう一つ重要なのは「仕事を在宅でもできる仕組み」を構築できた事です。 今後、テレワークが発展するためには、この事がポイントになると思います。  満員電車から解放され、郊外でのんびり暮らし、障害があっても問題なく働ける、そんな夢のような世界が、すぐそこまで来ているような気がします。  もちろん、そう簡単ではないかもしれませんが、我が社みたいに、やってみたら意外に上手く行くかもしれません。みんなで夢を叶えましょう! 写真:テレワークの様子 9ページ 意外と効果を実感 オンライン研修!! (株)UD ジャパン 内山早苗(うちやま さなえ) 逃げ出したい4月の日々  「えー、うそ!そんなの無理!!」と叫んだのは、この3月末頃。「来月の定例会はTeamsで行います」という連絡から始まり、 「セミナーをオンラインでお願いできますか?」と言われ、「何とかなると思います」と無責任に返事をしてしまった。 4月の新入社員研修は6日と7日の実施のみ。その後の予定はほぼ延期か中止。オンラインでもなんでもやるしかない!  さぁ、そこからが大変。メンバーと共に悪戦苦闘の1か月。TeamsやZoomの使い方研修を受けたり、試してみたり。 解った!と喜んだ翌日、ねーどうするんだっけ… 高齢の脳みそは記憶力が… もう逃げ出したい、と思うも、 イヤこれからはこれができなきゃ仕事ができない! 5月連休明け早々、まず半日の研修。その後6月1日まで4回のオンライン研修が控えている。 何とか踏ん張って5月を迎えた。 初めてのTeams研修  連休明けの5月8日。幸い初体験は、長年お付き合いのクライアント。受講メンバーも1年間何度も研修したメンバー。 チェックリストや書き込みシートの格納や配付案内もある。マインド的な研修でもあり、対面でなければ… と心配しながらのスタート。 受講メンバーは全員が障害者手帳保持者。身体や精神、発達のメンバーたち。コミュニケーションに課題がありオンラインでのペアワークは無理かも? しかし、案ずるより産むが安しだった! 配付課題、個人ワーク、グループワーク、発表も心に響く。一人一人に語り掛けられ、コミュニケーションもとてもいい感じ。 アンケートも例年と遜色なく、オンライン意外といいかもと安堵した初回だった。 多様なテーマと形式のオンライン研修  引き続き、障がい理解セミナー。名古屋・大阪・福岡の受講者が在宅で受講。30人くらいといわれていたのが80人以上の受講となった。 ここで実感したのは、オンラインの大きな利点と効果。通常、大人数の大会場では全員の反応がつかみにくく、質問も少ない。 しかし、オンラインでは受講者は自分のPCにPPTが映され、講師の顔も見える。講師からも数人の顔が見えるので語り掛けるように話せる。 通常よりも多くの質問があり、とても一体感を感じることができた。  次は講師6人のルーム・オブ・ダイバーシティ研修。受講者が70数名。車いす・視覚・聴覚・外国人・LGBTの講師の部屋を、受講者がグループで順次訪れる。 今回は講師も受講者も在宅。運営を私どもで行う。Zoomの多彩な機能を使い、リアル時と同様に実施できた。 いかにユニバーサルな研修にするか  私どもの研修の半分は、対象が障がいのある社員の方々。また講師も多様な講師が実施。当然、様々な配慮が必要。オンラインの場合も同様の配慮を実施。  弱視や全盲の受講者へは、本人の希望も聞きながら、PPTは白黒反転にするか、音声読み上げで可能か確認。 講師は画面を読み上げたり、時々本人に大丈夫か確認しながら進める。本人の希望と可能性を共有することが重要。  難聴やろうの受講者には、オンライン画面と別のデバイスで音声認識アプリを受講者と画面で同期して行ったり、本人の希望を聞きながら情報保障する。 手話通訳もオンラインならではの配慮を行う。  肢体障がいの場合は、本人が自宅なので配慮は少ないが、手に不便さがある場合、ワーク等で時間的配慮が必要な場合がある。本人に聞くことが大事。  誰でも参加できるユニバーサルな会議も配慮する方法はほぼ同様。このコロナ禍で急速に働き方改革は進み、社会はもう逆戻りできないだろう。 オンライン会議や研修は当たり前の常識になり、全国どこにいても(外国でも)場所を選ばない研修や会議参加ができる。  ユニバーサルな配慮のあるリモートワーク、オンライン会議、オンライン研修が障がいのある人や高齢者の活躍推進の機会増加につながることを願ってやまない。 写真:オンライン研修をしている内山早苗氏 10ページ 夜のラジオ体操部「ちょっと」 ラジオ体操1級指導士 三原保江(みはら やすえ)  みなさん、ラジオ体操は朝やるものだと思い込んでいませんか? 夜、体操することによって、一日の疲れや仕事のモヤモヤをすっきりと洗い流して爽やかな気持ちになり、 体操で上がった体温が徐々に下がるとともに良質の睡眠に向かうことができるという効果があります。  夜のラジオ体操部「ちょっと」ラジオ体操が体に良いことは知っているけど朝は忙しくて。夏休みは子どもと一緒にやったけど一人だと三日坊主。 そんな言い訳をしていた私たちが一念発起したのは今から2年前の2018年5月。「健康寿命の延伸と医療費の削減、コミュニティの構築」という大看板を掲げ、 「ちょっとの時間、ちょっと動いて、ちょっと元気に、たくさん笑顔に」をモットーに夜ラジは岡山市で発足しました。 「ちょっと」怪しいネーミングとは裏腹に健全なラジオ体操会で、ラジオ体操一級指導士が体操の目的・効果や正しい動きを伝授する「目からウロコのワンポイントレッスン」が毎回好評です。 リモート開催  2020年3月末、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、夜ラジも休会を余儀なくされました。 しかし、何とか繋がりを維持したいと考えた私たちは一策を講じてオンライン会議システムZoomを使って夜ラジを開催することを決意。 メンバーの誰一人として専門知識を持ち合わせていませんでしたが、時にはツテをたどってその道の達人に意見を乞い、 ITに強いメンバーの頑張りで試行錯誤を繰り返しながら、4月21日ついに「Zoomでレッツ夜ラジ!」初開催に漕ぎつけのです。  嬉しい効果は、画面を通して笑顔を交わせる双方向コミュニケーションと、NHKニュースを見た全国各地の方々からの申込みです。 休校中の子どもたちが大勢参加してくれたことも、ステイホームで俯きがちな大人の心を明るくしてくれました。 夜7時といえば世間のご家庭は晩ごはんどき。お出かけ準備と現地への移動が不要なリモート開催が子育て世代に支持されたようです。 あるいは「○○さんちの○○くーん!」と呼びかけられて、短い感想の後に「トン・トン・パ♪」でマイクを返す夜ラジルールが子どもの好奇心にヒットしたのでしょうか。  リモート開催ならではの課題もあります。パソコン画面に指導士の姿が収まりきらない。全身を収めようとカメラから遠ざかったら姿と声が小さくなる。 悩んだ末「正しい体操」より「楽しい体操」を優先し、続けてご参加いただくことが第一だと割り切ることにしました。 ウィズコロナ  外出自粛が解除され新しい生活様式をとり入れた日常が始まりました。夜ラジでは、現場でのリアルな繋がりとリモートでの繋がり、どちらの居場所も大切にしたいと考えています。  中にはリモートでの参加に抵抗を感じる方もいらっしゃるでしょうが、こんなときだからこそ周囲の力を「ちょっと」借りて気楽に私たちと繋がってみませんか。 いつか読者のみなさまとリモートでお会いできるその時まで「トン・トン・パ♪」。 写真1:夜のラジオ体操部(於:岡山県総合グラウンド) 写真2:「Zoom でレッツ夜ラジ!」 11ページ オンライン チャレンジド・ヨガ 一般社団法人チャレンジド・ヨガ~視覚障がいの方のヨガ~ 代表理事 高平千世(たかひらちせ)  「やってみたいな、ヨガ…」  一人の視覚障がいの方のことばをきっかけに2013年8月、埼玉県所沢市で視覚障がいの方のヨガクラス、チャレンジド・ヨガがスタートしました。 1.発足からの経緯  私たちはヨガの語源Yuj(ユジュ/繋がる)を大切に、共に生きる社会を目指し、5つを活動の軸として継続してきました。 ①定期ヨガクラス、②地域イベント、③地域クラスの普及、④講演・研究発表、⑤サポーター勉強会。 7年目の今では、定期クラスは全国に23ケ所となりました。  2020年も新たな地域からのお話に、新しいクラスが生まれる~と心躍らせ、準備をしていた頃、新型コロナウイルスにより、全ての定期クラス・イベントが中止となったのです。  私はこういう時、いつも思い出す参加者さんの言葉があります。  「チャレンジド・ヨガの魅力はできる!が大前提のところ」  この言葉のおかげで「原点にかえれ」と教えられるのです。  できる!やる!私の心は決まりました。 2.オンラインヨガという道  最初に、参加者にアンケートを実施しました。115通の回答と貴重な意見が届きました。  オンラインヨガに参加したい・興味ある89%。オンラインシステム経験あり30%。  この結果を受け、接続やカメラ位置などの事前サポートを整える事から動き出しました。  6つめの活動の軸、オンラインヨガが生まれた瞬間です。次に接続サポート開始。途中で諦める方は誰もいません。 そしてモニター体験会からは課題点が浮き彫りになっていきました。  「無音だと不安」「ポーズがあっているか不安」などです。  そこで音での切替え、ポーズチェックタイムなど工夫と改善の繰り返しです。 3.いよいよスタート!  第1回は5月。6月には7周年企画として関東と関西合同で開催する事ができました。  7周年企画では延べ130名、4歳から83歳の参加でした。高齢、脚等の障がい、小さい子供がいる、遠方など、様々な理由で外出に不安がある方々の新たなニーズも見えてきました。  オンラインチャレンジド・ヨガが掲げた目指すことは2つ。  「意識改革」と「区別化」です。  意識改革とは、自宅で人と比べずできるという、良い所に焦点をあてるという事。  区別化とは本来のヨガ、心の眼で観る・感じるヨガという事。  7周年の後、感想が届きました。  「やればできると言うチャレンジ精神と勇気を植えつけてくださった。」  「オンラインヨガの『禁断の果実』をかじってしまったからには、色々なクラスに乱入していきたい!」 「全国様々な方と交流しながらできるヨガは、夢のような時間でした。オンラインでも、他の方々の温かい体温を感じる事ができました」  ニーズは何か?課題は何か?本当に大切なものは何か?困難な時こそ、社会福祉、ヨガの原点にかえれと、当事者の皆さんが教えてくれました。  どんな時もできると希望を持ち、どんな時も楽しむ心を忘れず、どんな時も皆と共に、水のように柔らかく、強く、変化し続けていきたいです。  これからの「未知の道」、皆とならできる!ワクワクしている私が今、ここにいます。 写真:7周年特別企画オンライン チャレンジド・ヨガ 12ページ コロナ禍と公共交通機関におけるバリアフリー 公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団 竹島恵子(たけしま けいこ)  新型コロナウイルス感染症の影響で、テレワークの導入や3密の回避等の取組みが、経験したことのないスピードで広まりました。  今回は、移動手段である公共交通機関のバリアフリーに焦点をあて、今後の方向性を推察してみたいと思います。 インタビュー調査結果  エコモ財団では、2015年度から2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、2020東京オリパラ)開催に向けた移動と交通に対するニーズ調査を実施し、 一般市民の意識の変容の把握に努めてきましたが、19年度はこれまでの調査結果を踏まえて、2020東京オリパラへの課題、レガシーとして取り組むべき方向性について、 有識者・障害当事者へのインタビュー調査を行い、整理しました。  調査結果からは、招致決定からこれまで、ハード面の整備(エレベーターの設置、男女共用トイレの設置、トイレの機能分散、ホームと車両の段差解消への対応)などの充実の他、 音声の文字化やICTを活用した情報提供への配慮について評価を得ました。また、交通事業者の接遇の質の向上や、声かけ運動の拡がりも評価されました。 さらに、障害のある方等当事者参加の機会の増進も評価される結果となりました。 一方で、利用者全般のマナーの低下や合理的配慮、多様性、社会的障壁などの言葉の適切な理解や、人権や平等に関する意識の低さが指摘される結果となりました。 新しい生活様式とバリアフリー  国は基本的な感染拡大防止の3つの基本として、①身体的距離の確保(できるだけ2m〈最低1m〉、屋内より屋外)、 ②マスクの着用(真正面での会話を避け、屋内や会話する時は症状がなくても着用)、③手洗い(30秒程度かけ、水と石鹸で丁寧に)を掲げており、 移動に関する感染対策としては、感染流行地域への移動を避ける、帰省・旅行を控えめにし、出張はやむを得ない場合とする、地域の感染状況に注意することなどとしています。  これらの様式を踏まえて、インタビュー調査で評価を得られたバリアフリー設備は、これまでの考え方を上回る対応が必要になってくると思います。 例えば、エレベーターは短い時間であっても密閉空間となりますので、より一層の優先利用への配慮、階段やエスカレーターへの適切な誘導が必要になると考えられます。 また、交通事業者の接遇の質向上が評価されましたが、ソーシャルディスタンスを保ちながらの対応が求められます。 視覚障害者等の誘導案内方法のあり方、目の見えない当事者にとって距離を保つことの難しさ、声かけがなくなるのではないかという不安、 マスク着用による聴覚障害者とのコミュニケーション方法の問題等、様々なニーズを踏まえながら、対応していくことが必要になってくると考えられます。 また、発達障害者や知的障害者等が、この新しい生活様式に対応できるようにわかりやすい丁寧な説明も必要かと思います。 そのためにも当事者の方々からのニーズを継続的に把握する仕組みづくりが早急に求められるところです。 写真:「密閉」「密集」「密接」しない! https://corona.go.jp/prevention/pdf/zeromitu.pdf 参考:2020東京オリパラ調査結果 http://www.ecomo.or.jp/barrierfree/report/data/2020_03_olypara.pdf 13ページ キーワードで考える共用品講座第117講「テレワークと共用品・共用サービス」 日本福祉大学 客員教授 後藤芳一(ごとう よしかず)  テレワークには、働く本人や企業(Ⅰ)、仕事の場と環境(Ⅱ)、社会構造(Ⅲ)が揃う必要がある。 新型コロナへⅠが緊急対応し、Ⅱ→Ⅲへ広がった。いまは実験の段階、事例のなかに将来のエースがある。 1.背景と基調  直接の背景はクラスター、リスク管理、非接触、遠隔、社会的距離、在宅勤務、巣ごもり、選別、ウィズコロナ、新常態、持続性。  基調になるのは働き方改革、シェア経済、AI、事業のデジタル変革(DX)、5G、同一労働同一賃金(今年4月)、 キャッシュレス決済・消費者還元(同6月まで)、70歳まで働く機会提供の義務化(来年4月)。これらが各事例の消長を決める。 2.働く本人と企業(Ⅰ)  当初はWeb会議の環境(在宅用PC、Webカメラ、Wi-Fi、書斎)整備、利用が本格化してソフトの安全性や会議マナーが話題に。 普及すると不足を補うチーム活動のソフトや雑談(交流、発想)。押印、電子署名、VPN接続、行政書類電子化が話題に。  仕事も変わる。ギグワーク(単発仕事を受注)、道具(法律書)をシェア、 中小企業と専門家をネットで接続(生存めざす中小と仕事が減ったPRの専門家、ウェブで専門家が中小の助成金申請代行)、PCで目が疲れ音声配信(オーディオブック)が増加。  事務や会議以外では遠隔講義、オンライン診療、コンサルティング販売(スマホ計測しネット会話で自宅でオーダースーツ、住宅のオンライン商談、貸事務室をネット内覧)、 営業(対話ソフト、製薬営業をWeb会議で支援)、企業が直接消費者へ(食品メーカが消費者やテイクアウト店にレシピ配布、美容師がセルフカット法を動画配信、オンライン保育・育児支援)、 動画で擬似体験(海外の協力企業をネット視察、図書・博物館展示や音楽を配信)が進む。  小売商業は、電子商取引(EC)(百貨店の中元販売で産地の困難事情〈催事中止〉も表示)、ネット通販は20~50代女性が伸び、食品等日常の買物に浸透、 支払いはスマホが伸び、配達したい企業と個人事業運転手をネット接続、ファミレスは新常態でも深夜は閉店、ライブコマース(動画を見て購入〈中国で化粧品〉)、 ダイナミックプライシング(時間や曜日で価格変更し客席減の採算補う〈米国飲食〉)がある。 3.仕事の場と環境(Ⅱ)  仕事の場の確保(書斎設置や住替え、サテライト、ホテルが割安テレワーク商品、ワーケーション〈旅先で仕事〉、キャンピングカー)。都心空室が増加。 ストレス対応(運動/瞑想/ヨガソフト、自宅で自転車こぎ仮想ツーリング)、悩み対応(ネット相談、AIにはき出す、チームと共有)、 リスク補填(損保のテレワーク特約〈情報漏えい、パワハラ〉)。  暮らしは昼の自炊率が上がり食材を選べる高級スーパーや専門店、冷蔵庫が好調。宅配やテイクアウトも。 マスク着用で化粧はメイクアップから基礎化粧へ。人と交流を補完(ソーシャルギフト〈コーヒーや商品券をネット授受〉、日本発「あつまれ どうぶつの森」は世界へ)。 4.社会の構造(Ⅲ)  構造が変わる。働き方は「ジョブ型」雇用で能力指向へ。新しい働き方(大手や銀行も副業解禁、在宅勤務専門正社員採用〈ソフト〉、企業を頼らぬキャリア観)に。 事業は商流が変化(D2C〈自前サイトで直販〉)。暮らしは近場の再発見、都心集合住宅から郊外戸建や地方定住へ。  都市集積は不経済に、時間や場所(国境)のハードルが下がり、仕事・暮らしの様式が反転する。 5.共用品・共用サービスとの関係  新常態のバリアフリーはまだこれから(視覚・聴覚障害者はレジの並び方、マスクで意思疎通障害)。対策もある。 介護や緩和はネットで遠隔面会、補聴器は遠隔調整、買物代行は市民がスマホを持たない高齢者を訪ねて代わりに発注。 70歳まで働くとプロボノ(技能を活かして部署に属さず勤務)を生む可能性も。  1―4でバリアを抑えて5で高齢対応。これらが新しい不便さ対応の扉を開く。 14ページ コロナ禍での障害者運動 NPO法人日本障害者協議会事務局長 荒木薫(あらき かおる) 参加と平等の実現に向けて  日本障害者協議会(略称JD)は、国連・国際障害者年(IYDP・1981年)を機に、その前年1980年、IYDPのスローガンである“完全参加と平等”の実現を大きな共通の目標として設立しました。 障害のある当事者、家族、支援者、専門職、研究者、事業者など様々な立場で障害に関わる団体が障害の種別や考え方のちがいを越えてゆるいつながりをもって活動しています。  今、新型コロナウイルス感染予防に必要なのは「動かないこと」「集まらないこと」とされています。実はこれは日頃JDが大切にしていることとは正反対のことです。 行動することは運動の基本ですし、学習会などで距離を近くして集まっての交流は、お互いを知り合い、異なる障害や状況を理解しあう絶好の場です。 これを行えないのは大変もどかしいことですが、感染予防に最大限努めながら、インターネットや活字を活用して運動を続けています。 障害のある人への影響  障害のある人の多くは基礎疾患があったり、施設やグループホーム、病院などで集団生活をしている人も少なくありません。 感染のしやすさや感染した場合の重篤化、クラスターなど、一般の人の何倍ものリスクを負っていると言えます。 実際、重度障害がある人は、密に接触する介助者が必要なため、当事者、介助者双方が《感染しないか、感染させてしまわないか》という不安を持ちつつステイホームを余儀なくされています。 視覚障害のある人などは触って確認することが多いため、生活全般において慎重にならざるを得ません。 休校等で生活が一変し、発達障害のある子どものストレスが表面化しているとも聞きます。 障害の種別や環境により状況は異なるにしても、不安の渦中にあることは同様です。  その一方、リモートによる会議が一気に普及し、車椅子使用者など移動が大変な人が移動の負担なしに会議に参加できるようになったというプラス面もあります。 イタリア・トリエステでは、精神障害のある人と電話で話すことが病状悪化や孤立化を防ぐと、テレフォン精神保健を推奨しているとの情報もあります。 今後、通常の会議が再開可能になっても、電話やリモートなどの通信技術は大いに活用されるものと思います。 但し、パソコンなどのネット環境はまちまちという現状もあり、課題でもあります。  またその一方、自宅に居ながら会議や一定の事が可能になることで、町で障害のある人の姿を見かけなくなると、 存在を知られる機会が減り、忘れられ、差別・偏見につながらないかと一抹の不安も、杞憂ならいいのですが、感じ始めています。 国へ要望―いのち・健康・くらしを最優先に  JDは4月、感染予防対策に関する要望を厚生労働大臣と首相に提出しました。 概要は、衛生物資の供給や感染した場合の隔離環境など体制整備、作業所の休所や縮小に伴う工賃の保障、情報保障、 差別・偏見を助長しない情報の在り方、保健所機能の再構築、事業所報酬の、不安定な日額から月額支払制度への改善などです。 厚労省の回答を含め全体をJDのウェブで公開していますので、ご覧いただければと思います。  外国では、治療に必要な機器等を障害のある人には使用させないことがあるとの報道があります。 日本でもそのような命の選別、障害ゆえに差別・偏見の標的にされることのないよう、常にアンテナを張っていたいと思います。 写真:集会はいつ再開できるのか(昨年のサマーセミナー) 15ページ シャンプー容器のギザギザ、共用品の生みの親 青木誠(あおき まこと)さんを偲んで  去る4月7日に、青木誠さん(享年76歳)が、病気で亡くなられたと奥様の美津子(みつこ)さまより連絡を受け取りました。  青木誠さんにはじめてお会いしたのは、1992年3月、日本点字図書館の集会室でした。 「視覚障害者の日常生活における不便さ調査」の報告会で、シャンプーメーカーの方々が、集まる中、青木誠さんが花王の代表として来られました。 「シャンプー容器の側面にギザギザをつけること」、「実用新案権を取得したけれど、無償で開放するので良かったら利用してください」と、同業他社の人たちに説明されました。 その後、シャンプーのギザギザは、同業他社に広がり、日本産業規格、国際規格にもなり、社会に共用品の代表作として根付きました。 あれから30年、さまざまな分野に共用品は広がっています。 これも、青木さんが障害のある人たちと議論をし、何度もサンプルを作り、モニターを繰り返すことで共用品の第一号を作ってくださったことが始まりです。 心から感謝の気持ちでいっぱいです。青木さんの訃報に接し、つながりのある人たちに伝えたところ、感謝や悲しみの言葉が届きました。 お人柄を偲び、本誌にて一部を紹介させていただきます。  E&Cプロジェクトの初期からの青木さんのご活動はメーカーとしての社会貢献のお手本になるようなものだったと思います。 いつも優しくにこやかにメンバーと接しておられたことがとても印象に残っています。(安原七重〈やすはら なえ〉・当時ソニー)  「牛乳パックの切り欠き」も、青木さんがいなければ世に出なかったものです。真摯に、そして謙虚に不便さに向き合う姿。 尊敬しておりました。(杉山雅章〈すぎやま まさあき〉・川崎市視覚障害者情報文化センター)  青木さんの業績は財団にとっても、共用品にとっても不滅です。(花島弘〈はなしまひろし〉・当時日本点字図書館)  E&Cで青木さんと一緒に過ごせた事に感謝し誇りに思います。これからも原点を忘れず歩みたいと思います。(望月庸光〈もちづき のぶあき〉・当時オリエンタルランド)  諸行無常の一節が頭に流れました。悲しいです。(中原道博〈なかはら みちひろ〉・当時東芝)  青木さんの声が蘇ります。(山名清隆〈やまな きよたか〉・インクル名付親)  花王さんはその後、聴覚障害者にも伝わるようにテレビCMの字幕付与に積極的に取組んでいます。 こうした風土の原点に青木さんの存在があるのだと思いました。(松森果林〈まつもり かりん〉・UDアドバイサー)  シャンプーのギザギザは民間企業の花王が考案したと説明すると、海外の標準化機関で必ず感心されました。 世の中はどんどん変化しますが、青木さんが残したこのギザギザはなくなりません。(金丸淳子〈かなまる じゅんこ〉・共用品推進機構)  青木さんに会いに行くといつもの柔らかな笑顔で迎えてくれました。 その時、沢山のプロトタイプを見せてくれ親身になって真剣に取り組んでいた青木さんそのものがそこにはありました。(小塚通宏〈こづか みちひろ〉・当時トミー)  青木さんは、今の私を作ってくださった恩人の一人です。感謝してもしきれません。(森川美和〈もりかわ みわ〉・共用品推進機構)  「共用品白書」にあるノーマライゼーション→共用品への図は青木さんの作品。 国内外で幾度説明させていただいたか分かりません。明日館に着くと、いつも青木さんの笑顔がありました。(後藤芳一〈ごとう よしかず〉・経済産業省・E&Cプロジェクト)  区切りの会合の時に、青木さんが当時のメンバー全員に「感謝状」を送ってくださいました。 私には「視力検査表で測る視力は少ないけれど、あなたはいつもアンテナのように広く、近くも遠くもしっかりと見ていました。 日本だけではなく、世界も見ていました。組織が変わっても、そのアンテナを共用品に役立てていただきたいです。」 とても恐縮し、同時に涙が出るほどうれしかったことを今でもはっきりと覚えています。(芳賀優子〈はが ゆうこ〉) 写真1:青木誠さん 写真2:シャンプー容器の側面のギザギザ 16ページ 新しい日常にもアクセシビリティを 【事務局長だより】星川安之  2月14日、共用品推進機構が事務局を担っているアクセシブルデザイン推進協議会が主催して行った年一度のシンポジウムには、150名を超える方々に集まっていただいた。 しかし、その後のコロナ禍は、社会の様子を一変させた。  集うこと、議論を重ねること、多様な人の意見をお互い聞きあうこと、笑い合うこと、同じ場で食事をすること、現地に行って確認すること、 実際のモノを見て・触って・聴いて使い勝手を確認すること、大きな場所で多くの人と共に映画を観る・音楽を聴く・講演を聞くといった、 当たり前、もしくは推奨されてきた現場でのことが、ほぼ一瞬にして自粛せざる得ない事態になった。  自粛の中で入ってくる情報は、店頭からマスクや消毒液がなくなり、いつ入荷するかが未定、保存食を購入するのに長蛇の列、 PCR検査を受けられる基準の変化、次々と中止・延期となっていく各種催し、さらには、各種業態への休業要請と補償の問題に加えて、 毎日変化する感染者数など、遠い未来が舞台のSF小説の中に入りこんでしまったような錯覚に陥ることばかりだった。  テレビ報道においては、報告者の横に立つ手話通訳の人がマスクをしていないことに心配する声があがった。 耳の不自由な人の中には、手話だけでなく手話通訳者の口の形を読んで理解を促進させている人がいることが、一般に知られていなかったこともあり、 透明プラスチックでできたフェイスシールド状のマスクが登場しはじめ、普及していった。  そんな時、全日本ろうあ連盟の久松三二(ひさまつ みつじ)事務局長から感染予防の観点から、 その場に行かずに遠隔から手話通訳をできる仕組みをガイドライン化したいので手伝ってほしいとの連絡が入った。 連絡をもらって一週間もしないうちに、オンラインによる委員会が設定され、慶應義塾大学の川森雅仁(かわもり まさひと)教授がガイドラインの文書作成を引き受けられ、 多くの意見を的確にとりいれながら、2週間もたたないうちに素案ができあがった。 素案に関して議論するメーリングリストには、毎日10数件のコメントが飛び交い、3週間後にはほぼ完成版ができあがった。  他方、報道では、多くの人たちが自粛生活をする中で、多くの人の命を守るために日々働き続けている医療従事者、自粛生活の中で出るごみの収集清掃に従事する人たち、 命をつなぐ食料を作り、運び、販売する人たち、多くの人の憂鬱な気持ちを、音楽・アート・映像などで、晴らそうとしてくれている人たちが映し出されている。  今さらながら、人はいつでも、だれかに、支えられ、支えあって生きていると、この状態の中で強く思う。  共用品推進機構が行ってきた障害者・高齢者の日常生活における不便さ及び良かったこと調査、合意された解決案の標準化、 そして各種普及事業は、コロナ禍で、再調査、再整理、及び様々な普及方法を模索しはじめている。さらなるお力をいただけたらと思っている。 共用品通信 【イベント】 心の目線を合わせる オンライントークショーTokinさん 山田ルイ53世さん(7月3日) 【会議】 第22回通常理事会(書面審議) 第15回定時評議員会(書面審議) 第23回臨時理事会(書面審議) 【講義・講演】 岡山県UDアンバサダー養成講座 5回シリーズ 第1回共生社会と人(7月7日、星川) 【報道】 時事通信社 厚生福祉 5月22日 MRIと聴覚障害 時事通信社 厚生福祉 6月5日 マスク 時事通信社 厚生福祉 6月12日 婦人発明協会の「工夫集めました」 トイジャーナル 5月号 補聴器と電池の向き トイジャーナル 6月号 マスク 福祉介護テクノプラス 6月号 千代田区が行った『良かったこと調査』 福祉介護テクノプラス 7月号 公共トイレにおける『良かったこと調査』 高齢者住宅新聞 5月20日 補聴器と電池の極性 高齢者住宅新聞 6月10日「口が見える」手話通訳者のマスク シルバー産業新聞 5月10日 障害者の就労とテレワーク シルバー産業新聞 7月10日 複数の方法で イタリア規格協会 U&C6月号 Giappone accessible 東京新聞 6月3日 ともに遊ぼう 共遊玩具30年 そのおもちゃ優しい 東京新聞 6月4日 ともに遊ぼう 共遊玩具30年「誰もが使いやすい」浸透 アクセシブルデザインの総合情報誌 第127号 2020(令和2)年7月25日発行 "Incl." vol.21 no.127 The Accessible Design Foundation of Japan (The Kyoyo-Hin Foundation),2020 隔月刊、奇数月に発行 編集・発行 (公財)共用品推進機構 〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-5-4 OGA ビル2F 電話:03-5280-0020 ファクス:03-5280-2373 Eメール:jimukyoku@kyoyohin.org ホームページURL:https://kyoyohin.org/ 発行人 富山幹太郎 事務局 星川安之、森川美和、金丸淳子、松森ハルミ、田窪友和 執筆 荒木薫、内山早苗、岡田正敏、後藤芳一、高平千世、竹島恵子、芳賀優子、三原保江 編集・印刷・製本 サンパートナーズ㈱ 表紙写真:テレワークの様子 本誌の全部または一部を視覚障害者やこのままの形では利用できない方々のために、非営利の目的で点訳、音訳、拡大複写することを承認いたします。 その場合は、共用品推進機構までご連絡ください。 上記以外の目的で、無断で複写複製することは著作権者の権利侵害になります。